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管理栄養士コラム

2025.12.10 女性の健康とプレコンセプションケア

日本肥満学会は、閉経前までの成人女性における低体重や低栄養に関連する健康障害を体系的に整理し、新たな概念 (症候群)として「女性の低体重/低栄養症候群(Female Underweight/Undernutrition Syndrome;FUS)」を提示したことを前回のコラムでご紹介しました。今回はFUSとも関連が深い「プレコンセプションケア」について、概説したいと思います。「プレコンセプションケア」は政府の政策にも取り入れられており、こども家庭庁は2024年度の補正予算として、プレコンセプションケア事業に5億円を計上、そしてこのほど「プレコンセプションケア5か年計画」を発表しています。しかし若い世代を含む、日本におけるプレコンセプションケアの概念や認知度は非常に低く、1割以下というデータもあることから、用語及び概念の正しい理解と認知度向上が急務と考えられています。

プレコンセプションケアとは、米国疾病管理予防センター(CDC)が2006 年に提唱し、WHO(世界保健機関)では2012年に、「妊娠前の女性とカップルに医学的・行動学的・社会的な保健介入を行うこと」と定義しております。日本では、2018年12月に公布された「成育基本法」に基づき、2021年2月に「成育医療等基本方針」が閣議決定され、初めて“プレコンセプションケア”について言及がなされました。そして日本においてプレコンセプションケアを推進する理由のひとつとして、先日のコラムでご紹介した「若年女性の痩せによる骨量減少」や「低出生体重児出産のリスク」などが関連していることが明記されています。日本で初めて開設されたプレコンセプションケアセンターである、国立研究開発法人成育医療研究センターでは、“「プレコンセプションケア」は、若い男女が将来のライフプランを考えながら、日々の生活や健康と向き合うこと”としており、若い男女がより健康で輝き続けるために、あらゆる視点から現在の健康状態のチェックを受け、日々の生活や健康について各分野のスペシャリストたちに相談できることを目指し、女性のライフステージに合わせた包括的なケアの提供と健康管理サポートを実施しています。

長々と書いてしまいましたが、“プレコンセプションケア”とは妊娠前からの健康ケアであり、妊娠前から健康的な生活習慣(適切な栄養管理、体重管理、身体活動)を身につけることで、より健全な妊娠・出産のチャンスを増やし、次世代の子どもたちをより健康にすることを目的としています。

こども家庭庁より発表された「プレコンセプションケア推進5か年計画」では、今後5年間の集中的な取組として、

  1. 性や健康に関する正しい知識の普及と情報提供
  2. プレコンセプションケアに関する相談支援の充実
  3. プレコンセプションケアに関する医療機関等における相談支援の充実
という3つの項目が挙げられています。また、プレコンセプションケアの普及に係る人材育成として、自治体・企業・教育機関等において、性や健康に関する正しい知識の普及を図り、健康管理を行うよう促す「プレコンサポーター」の人材育成を行うことが示され、プレコンサポーター5万人以上の養成を目指すとされています。

青年期からの身体的、心理的、社会的な健康の保持は、将来にわたる自身の健康に加え、次世代の健康保持と国民全体の健康保持増進にもつながることが期待されます。次回のコラムでは、栄養学的観点から、妊娠前から取り組むべき重要な事項についてご紹介していきたいと思います。


参考文献
1.プレコンセプションケアの提供のあり方に関する検討会 ~性と健康に関する正しい知識の普及に向けて~. こども家庭庁. 2025:

2.Johnson K, et al: Recommendations to improve preconception health and health care--United States. A report of the CDC/ATSDR Preconception Care Work Group and the Select Panel on Preconception Care. MMWR Recomm Rep 2006; 21;55(RR-6):1-23.

3.WHO Preconception care:Maximizing the gains for maternal and child health.

4.国立成育医療研究センター プレコンセプションケアセンター.

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