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管理栄養士コラム

2017.08.04 日本人の食と健康減塩の必要性について考える

食事・栄養に関するガイドラインとして、厚生労働省から出されている「日本人の食事摂取基準(2015年版)」があります。これは、日本人が健康な生活を送れるように栄養素の過不足が問題となるような病気にならないようにするには、何をどのくらい食べれば良いかを示した食事摂取量の基準です。その中で、食塩の目標量は成人では男性8.0g未満、女性7.0g未満とされています。ところが現状では、日本人成人における平均食塩摂取量は男性1日11.0g、女性1日9.2g(2015年国民健康・栄養調査報告)で、目標量を大きく上回っています。食塩の摂り過ぎは、日本人において昔も今も大きな課題であることは間違いありません。

食塩摂取過剰が高血圧をもたらし、高血圧が心筋梗塞や脳卒中のリスクになることは広く知られているものの、実際にはその切実感が乏しく、また摂りすぎているという自覚もあまりないというのが現状だと思います。その理由のひとつとして、毎日の食事で我々が摂取している食塩のうち、そのおよそ7割がみそ、しょうゆを含む調味料由来の摂取が占めていることから、知らず知らずのうちに“かけ過ぎ”“つけ過ぎ”ている可能性が考えられます。減塩の手法として、①料理をつくるときには、目分量ではなく計量する②完成したお料理に調味料を使うときにはかける量に注意する、直接かけずに小皿に調味料をとって、つけて食べる③減塩タイプの調味料を利用する④酸味、香味、辛味、天然だしのうま味など、上手に組み合わせること、などが挙げられます。これらは個人でできる減塩対策ですが、今回はイギリスにおける国家規模で実践した減塩の手法、政策(戦略)についてご紹介します。

この政策では、イギリス人の食塩摂取量の主要供給源となっている食品(加工食品)の食塩含有量を下げることに着目し、食品産業を巻き込んで加工食品中の食塩含有量を下げる等、食環境の整備に取り組みました。その結果、2003年から2011年の8年間で1日あたり平均1.4g(9.5g→8.1g)の減塩に成功し、心筋梗塞と脳卒中の死亡率が36%減少したことが確認されました1)。もちろん、これらの死亡率の低減には、食塩摂取量の減少以外の因子も寄与していると考えられますので、減塩効果のみで結論づけることはできませんが、集団全体へアプローチすることで、全体としてリスクを下げていこうという手法(ポピュレーションアプローチ)の代表例として評価されている取り組みの1つです。

さて、食塩の摂り過ぎと言えば、高血圧を連想する方が多いかと思いますが、高血圧だけではなく、胃がんや骨粗しょう症などのリスクにもなることが明らかになってきたことから、減塩のメリットは大きいと考えられます。食塩は、生きていく上で必須な栄養素であるため、減らしすぎてはいけないのではないか、と心配される方がいらっしゃいますが、現在のところ1日4g程度まで減らしても健康障害の心配はないと考えられています2)。実際には、ほとんどの日本人は必要量をはるかに超える食塩を摂取していることから、一般的な日本人の食生活では1日4g以下に減塩することは難しいと考えられ、今のところは塩の減らしすぎについて心配する必要はないと思われます。

わたしたちは毎日、食事を通して栄養摂取しており、毎日の食事が健康へ及ぼす影響や役割が大きいことは言うまでもありません。高血圧や心筋梗塞等、病気を患ってから積極的にその対策を講じるのではなく、こどもの時期から発症リスクの低い食生活;たとえば減塩対策を講じることは、将来の健康にもつながるものであり、生涯を健やかに生き抜くうえでとても大切な視点ではないでしょうか。

【参考資料】
1) He FJ, Pombo-Rodrigues S, Macgregor GA. Salt reduction in England from 2003 to 2011: its relationship to blood pressure, stroke and ischaemic heart disease mortality. BMJ Open. 14;4(4):e004549, 2014.
2) Sacks FM, Svetkey LP, Vollmer WM, et al. Effects on blood pressure of reduced dietary sodium and the Dietary Approaches to Stop Hypertension (DASH) diet. DASH-Sodium Collaborative Research Group. N Engl J Med. 4;344(1):3-10, 2001.

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